甲津原の暦では、昔から10月8日、9日は「バイもり休み」という休日になっています。
山仕事を休む日で、また、その日までに「バイの実」を収穫するという日だそうです。
土地の暦にもなるくらい、古代から親しまれ、食べ続けられてきた、集落のみなさんが大好きな「バイの実」。
わたしは甲津原に来てはじめて知りました。
トチ、バイ、クリ、クルミ、ドングリ。
秋の甲津原は山の実りであふれかえります。
どの木の実も、縄文、狩猟採取時代から保存のきく食材で、貴重なタンパク源でした。
今年のバイの木を見にゆきました。
果実は、残暑きびしい日差しをあびて、熟している真っ最中。
1か月後には果実に筋が入り、落ちそうになったら収穫です。
収穫前の熟したバイの果実は、鮮やかでさわやかな香りがします。
たとえるならシトラスのよう、まさに天然の和アロマです。
収穫をおえると、実はクルミと同じく果肉をおとさなくてはならず、種子はトチの実と同じく、木灰ぬきをしなければ食べれません。
手順は、実を1か月ほど土の中に埋めて果肉を腐らせると、アーモンドのような茶色い種子がのこります。
種子についている果肉をきれいに洗い流して、木灰に1〜2日つけて、灰汁ぬきをします。
それがおわると天日干し、最後に炒ります。
昔は囲炉裏に炒り鍋(いりなべ)で炒りましたが、今はオーブントースターで便利に炒れます。
炒れたら殻を割り、実をとり出し、黒い薄皮は苦いのでとりのぞき、ようやくいただけます。
「和製カシューナッツとも言われているよ」
山の薬膳ごはんよもぎの上野さんに言われ、はじめてバイの実を食べたとき、たしかにカシューナッツのような油分をふくみつつも、さわやかな香りとコク、栄養満点!という印象でした。
(炒った実にも果実の香りがかすかにのこります)
さらに、バイの実は食用だけでなく、油屋へ運んで搾ってもらい、油にしていました。
お宮さんの灯明につかわれたり、貴重な現金収入にもなったそうです。
以前、高橋大吉さんにインタビューしたときには、
「バイだけでなくヒヨビ(イヌガヤ)というよく似た実があって、ヒヨビのほうが油がよくとれたんです。バイの葉はとげとげしくて刺さるけど、ヒヨビはかたちは同じだけど柔らかい。バイの実はずっと緑のままで柔らかくなるけど、ヒヨビは少しピンク色になるから見分けやすい。」
とお聞きしました。
木を大切に育て守られている集落の方には、
「バイという名前は、どんなものよりも倍(バイ)の美味しさやから」とお聞きしました。
縁起がよいそうです。
葉と実はカヤにそっくりなので、「カヤの一種ですよね?」とたずねると、
「形がちがう、カヤではなくてバイだ」と言われます。
たしかに、「カヤ(榧)」で調べたら出てくるような、高くて太い木ではないため、くわしい方に品種を見ていただきたいなと思います。
土地とともに生きてきた木、手仕事、この先も大切にしたいですね。
*また今年の収穫後の写真が撮れれば更新します
コメント
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