レポート② 先祖代々のあじ トチ餅

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たまちゃんの「よもぎパン」レポート②
2回目のワークショップは、甲津原の古老 高橋大吉さん(高)、漬物加工部 山崎トミ子さん(山)と、進行役の総合地球環境学研究所の熊澤輝一(熊)、甲津原アーカイ部の鈴木あき(鈴)で、甲津原のトチ餅についてや、昔の暮らしについてお話しました。

アクぬきがポイント!

熊:昔はみなさん各家でトチ餅をつくられていましたか?

高:ほとんどの家でつくってたな。
昔から、秋になったらクルミが落ちて、クリが落ちて、トチが落ちて、どこの家でも木の実を確保していた。縄文時代の人といっしょです。

熊:トチ餅のあじは、家ごとに違いますか?

高:女の人が、トチの実を「灰がく(アクぬき)」とき、味がきまるんや。
苦味をとるときに「手をきらう」と言って、苦い苦い、食べられへんほど苦い人もいた。

山:アクがぬけていないんやな。
梅干しをつくるときも、手をきらうと言う。なんかコツがあるんやろうけど、人によっては、すごい苦かった。
だから、手をきらう人は、手をきらわない人に、ちゃんとアクがぬけてるか何回も見にきてもらって、教えてもらった。

鈴:「手がきらう」というのは、上手ではないという意味ですか?

高:そうやな、何度やってもできへん人がいたな。
そういう人は隣の家とか、よその家のおばあさんとかに頼みに行った。

熊:トチ餅はどうやって食べていましたか?

高:囲炉裏で焼いて食べました。
灰にずらーっとならべて、食べるときに灰をぽんぽんって払って、ちょっと焦げたくらいが香ばしくてね、美味しいです。
(囲炉裏の火に向かって灰を掻いて立てたところへ、餅を立てかけて置き、片方が焼けると裏返す)

熊:お餅にしたとき、トチの実の量が多い少ないはありませんでしたか?

高:そういうのはないな。

トチ粥やトチ蜜

熊:トチ餅は子どもの頃からずっと食べられてきましたか?

高:もちろん、おやつやったよ。
子どもというよりも、先祖代々、苦味をぬいて食べられるということから、ずっと食べ続けてきたんです。
トチを拾わないもんはおらんかったし、ずっと自然と一緒に、そうやって食いつないできた。
ヨモギやトチを入れると量が増えるから、米もようけいらんから。
トチはお粥にも入れて食べてた。
苦味さえとったら、どんなことしても美味しいんです。

山:トチの花はおいしい蜂蜜がとれる。
トチの花が咲いたら、蜂蜜をつくっている人が、うちの山の木の下に巣箱を置きに来て、ミツバチが巣箱に入るんや。

高:50年前になるが、飯台にするため、トチの木を買いに来る人がいた。
山の中で玉切りして、その場で持ち運べるくらいの重さの厚みに切って、背負っておろしてきた。
それまでは、木が売れる、お金になる、ということがなかった。
だから、「トチの木がお金になる!」って、近くの木はみんな売ってもうた。
トチの木はどこにでもあって、秋になると木の下が真っ赤になるくらい、なんぼでも実が落ちてたのに、なくなった。
今は気象の関係か、昔ほど実がならん、落ちてないな。
クマもシシもサルも、クリは食べるけど、トチは苦いから食べないんです。

熊:トチ餅、トチ粥、トチ蜜、ほかにもトチをつかった料理などはありますか?

高:今は便利になって、なんでもスーパーでおいしいものを買ってこれるから、めんどくさいことはしなくなった。
昔は山のものしかない、自給自足しかなかったんやから。

熊:現在、漬物加工部でつくられているトチ餅のように、中にあんこを入れるようになったのはいつ頃からですか?

高:加工部で開発して、販売するようになった頃(平成21年〜)です。
(甲津原漬物加工部のトチ餅は、小豆餡ではなく、大豆でつくられたやさしい餡です)
昔はヨモギもトチも、のし餅しかなかった。
砂糖もなかったから、あんこといったら、ぼたもちか、たまにヨモギ餅に入れるかくらい。
あんこは盆と正月の年に2回くらい、めったにあたらんかった。

山:昔の人は今でも「(トチの)のし餅を売ってくれ」と言ってくる。

鈴:家でつくられてきた人にとっては、のしになっているお餅こそ「トチ餅」なのでしょうね。
米原では売られているのを見かけませんね、道の駅(旬彩の森)にも売っていないし。

灰が命!

山:漬物加工部でトチ餅を販売する前に、朽木(滋賀県高島市)へ見学に行った。

高:朽木のトチ餅はいい、色と味と、すべてがいいんです。
なんでこんないいのか聞いたんです。
そしたら、朽木ではみんなで灰をつくって分けている、灰を統一してますんや、と言われました。
アクぬきは硬い木でないとあかん、柔らかい木はあかんのや。
マツやクリの灰でしたらだめ、苦くて食べれない。
ホソ(コナラ)とか、ナラとか、カシとか、硬い木でやらないとあかん。
甲津原は家々によって、使ってる木によって、灰によって、トチの色の濃さがぜんぜん違っていた。

鈴:お隣の熊澤さんは、朽木へも調査に通われていて、朽木のトチ餅のこともよくご存知です。

熊:朽木でもつくれる人が少なくて、灰が足りなくて困っているそうです。

山:昔は毎日、囲炉裏をつかっていたし、五右衛門風呂も炊いていた。
灰はいつでも生活のなかにようけあって、たまってくるから、畑や田んぼに肥料としてまいたんや。
今は貴重になってしまった。

熊:トチ餅をつくるためには、まず灰がないと続いていかない…

高:ほんまや、今は灰が貴重や。

熊:甲津原では灰はどうしているんですか?

高:硬い木で薪ストーブを炊いてる家からもらわないとだめです。

鈴:我が家の薪ストーブは、いろんな樹種がすごいミックスされてるので無理ですね笑。

高:そう、灰が生命や。

レポート③へ続く → 山からいただく命/峰越の交流

以前に甲津原漬物加工部で、トチの実のアクぬきについて取材した記事もぜひお読みください。
とち餅ができるまで〜収穫から加工
とち餅ができるまで〜お餅づくり

◯ レポート① → 兆しの感知と「よもぎパン」(寺田匡宏 総合地球環境学研究所客員准教授)

参考ページ
→ 甲津原の歴史
◯ 高橋大吉さんインタビュー → 語りつづる甲津原史

コメント

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