『雨乞いの面さま』
(昔ばなし『いろりばた』より)
ずっと昔から、甲津原には十二面の能面が大事に残されてきました。
あるとき美濃関ヶ原から、
「神事の踊りに使いたいので、ぜひ二面を借用いたしたい。」
と氏子の代表という者がやって来ましたので、こころよく貸してやりました。
ところがいっこうに返しに来ないので、たしかめてみると、そんな神事はあったためしもなく、まして能面を借りることなど、全く思いあたらないというのです。
結局そんなことで、大切な二つの能面はそのままになってしまいました。
ところで、この面は雨乞いの神様ともいわれていて、
面を外に出すだけでも、雨がふるのだと信じられています。
かつて村ではまれにみるひでりのために、いつもは豊かな谷川の水もかれほそってしまいました。
そこで、とうとう面さまに雨乞いをすることになりました。
村中総出で、みんなが裃(かみしも)をつけ、口には髪をくわえて面さまを川原にはこびました。
川のほとりの「なんばら石」の上に面さまをならべると、竹の笹を川につけておはらいをします。
面の上に竹の露がかかったとみるまに、空がかきくもって、
二羽の白鷺がどこからともなくあらわれて舞いあがります。
二羽の白鷺が雲をよぶのでしょうか。
やがて大粒の雨がはげしく降り出すのでした。
やがて白鷺はどことなく消え去っていくのですが、この二羽の白鷺は、
失った二つの能面が舞いもどって来るのだと信じられているのです。
*甲津原は姉川の源流近くにあり、姉川からの水、めぐみをはじめにうけとります。
甲津原では、家の床板の張られかたから、かつて各家で能が舞われていたとされています。
氏神さまである天満神社には、ご神体として、能面が10枚(3面は室町作、5面が安土桃山作、2面が江戸作)収められています。
日照りが続くと面さまを出し、姉川にあるなんばら石の上にならべたところ、必ず雨が降るという伝承が残っています。
姉川下流の集落から「面さまを出してほしい」と頼みに来られることもあったそうです。
おしまい
コメント
地域に残る昔ばなし、民話、おもしろいですね。
後世に語り継ぎたいですね。
ありがとうございます。昔ばなしから感じる歴史は、空想的でもあり楽しいですね。
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